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http://www.chinadialect.com/info_view.asp?id=179
由岩田礼教授翻译。
前 言
一 背景 漢語方言は悠久の歴史を有し、またヨーロッパにおける言語間の差異を超えるほど大きな方言差がある。漢語方言は、現存する中では世界で最も古く、最も豊かな言語文化的資源の一つであり、中国文化と人類文明の貴重な遺産である。20世紀中葉以来、中国の経済、文化、教育、交通の急速な発展に伴い、漢語方言には大きな変化が起きている。各地の方言の特質が急激に消滅しつつあり、さらに一部の弱勢方言は衰亡に向かっている。我が国の漢語方言の伝統的様相を全面的、科学的に調査して、すぐさま方言資料を記録、保存し、民族の言語文化遺産を守ることは、我が国言語学界にとって焦眉の急といえる歴史的使命である。
方言地図は言語研究のための一つの重要な手段であり、広域的にみられる数多くの方言現象について、その様相や分布状況を記述、提示、保存する際に必要不可欠な役割を果たす。19世紀末以来、フランス、ドイツ、スイス、イタリア、デンマーク、イギリス、チェコ、アメリカ、カナダ、日本、フィリピン、タイなど数多くの国々が多くの力量を投入して、自国の方言地図集に対する調査、編纂、出版活動を行なった。例えば、ジリエロン(Jules Gilliéron)による『フランス方言地図』(1902-1910年)、ヴレーデ(F. Wrede)等による『ドイツ言語地図』(1926-1956年)、ヤーベルグ(K.Jaberg)、ユッド(J.Jud)による『イタリア・スイス言語地図』(1928-1940年)、国立国語研究所による『日本言語地図』(1966-1974年)、『方言文法全国地図』(1989-2006年)などを挙げることができる。
中国ではすでに20世紀20年代、林語堂、劉復などの先達が、調査に基づく漢語方言地図の作成という大きな構想を公にしている。その後、趙元任が数回にわたる大規模な方言調査を組織し、『湖北方言調査報告』(1938年成書、1948年出版)において初めて66葉の方言地図が収められた。20世紀40年代、グロータース(W. A. Grootaers)が西洋の言語地理学を中国にもたらした。彼は大同、宣化などで方言を調査し、方言地図を含む数多くの論文を発表した。しかし、歴史的原因によって、全国方言地図編纂の夢は長らく実現しなかった。20世紀80年代に至って、中国社会科学院、オーストラリア人文科学院の共同編纂になる『中国語言地図集』(1987年)が出版された。そこには総合地図5葉、漢語方言地図16葉、少数民族言語地図14葉、計35葉の地図が含まれる。これは漢語方言と中国の少数民族語の分布と方言区画を示す最初の地図であり、創業的意義を有する。20世紀90年代以来、岩田礼など日本の学者は漢語方言地図の作成に取り組み、1992年から2007年までに、“研究報告書”の形で『漢語方言地図(稿)』など6種の漢語方言地図集を出版した。それぞれ数十葉の方言地図を収めるが、いずれも公刊済みの方言資料に基づいて作成されたものである。これら日本で出版された漢語方言地図は、言語特徴単位の分布地図という点で、有益な研究であり、また重要な貢献を果たしたが、資料的な制約のために、漢語方言の基本的様相を全面的に反映するのは困難であった。
言語特徴単位の分布地図(以下“特徴地図”)は、方言地図の基本形式であると同時に言語地理学、歴史言語学、社会言語学、言語類型学など、言語科学諸領域における研究の基礎である。内外の学術界においては、本格的な漢語方言特徴地図集の出現が待望されて久しい。『フランス言語地図』が生まれて一世紀経過した今日、中国がこの巨大な空白を放置し続ける理由はどこにもない。調査、編纂活動が極めて困難なことを十分認識しつつも、歴史的使命感と科学的創造の魅力に駆り立てられて、我々はためらうことなく『漢語方言地図集』の編纂に向かった。
二 研究過程 1997年以来、我々は関係機関にプロジェクト研究“漢語方言地図集”の申請計画を幾度も提出した。その結果、“漢語方言地図集”は2001年12月7日、教育部(日本の文部科学省に相当)の人文社会科学研究“十五”計画課題の一つとして採択され、ついで2001年12月12日には、北京語言大学の“十五”計画課題の一つとして採択された。ここに本研究は正式に全面始動することとなった。調査、研究の過程はおおよそ以下の段階に分けられる。
2.1 事前準備、事前調査(2001.12-2002.11)
この期間、研究課題と調査項目に関する検討会を幾度も開催し、調査地点の選定、調査項目の設定及び作業規範の策定を集中して遂行した。また全国の主要方言について20回の試験的調査を行なった。調査、改訂を繰り返した後、2002年10月に本研究調査専用の冊子『漢語方言地図集調査手冊』を印刷し(のち2003年2月、マカオ言語学会より正式出版)、2002年11月には『漢語方言地図集工作手冊』を印刷した。
2.2 調査(2002.12-2006.12)
調査活動は4年にわたって続けられた。2002年12月5日に最初の調査地点を調査し、最後の地点は2006年12月19日に調査が完了した。調査に関する具体的な状況については、下文“三 調査と研究”を参照されたい。
2.3 資料整理、データベースの構築と地図“図目”の編纂(2005.3-2006.12)
(1) 入力
37の調査地点については、調査時にコンピュータに直接データを入力した。他の893地点については、まず『漢語方言地図集調査手冊』にデータを書き入れてからコンピュータに入力した。後者のデータ入力は、調査者自身が行なった地点が約70%、残りの30%は本研究で雇用した入力者が遂行した。各調査地点のデータは、音声、語彙、文法、それぞれのジャンルごとに設定された三種のMS Wordの表に入力した。重点調査地点については、さらに『方言調査字表』によって調査したデータをもう一つ別のWordの表に入力した。国際音声文字(IPA)は、一律にIpaPanADD 3.0版を使用した。
(2) 校正
2006年5月より、研究チームは36名を動員し(研究スタッフ及び大学院生)、入力データの校正を行なった。校正には、データの確認、用字の統一等の作業を含む。入力者自らが校正を行なった場合は別にして、研究チームによる校正作業は、通常、初校、二校、終校の三段階であったが、実際には多くの地点について四校、五校まで行なわれた。校正作業を画一化するために、『漢語方言地図集校対手冊』を作成した。そこには用字を統一するための“用字規範”も含まれる。
(3) データベース構築
調査データの最終校正を終えた後、Wordの表をExcelに変換し、データベースに読み込んだ。2006年12月末までに、全930地点の“漢語方言地図集データベース”を構築した。
(4) “図目”の編纂
“図目”とは、地図の掲載項目を指す。その選定作業は2005年上半期から着手し、一年以上にわたって検討と修正を重ねたのち、2006年末には音声、語彙、文法各巻の図目が基本的に確定した。
2.4 分類と作図(2007.1-2007.12)
“分類”とは、各項目の方言データをグループに分けることを指し、分類の結果は地図凡例における各種類型として反映される。分類には、データベースからのデータの抽出、分類表の作成、問題点の討論、修正、審定などの過程があり、各地図の分類表はすべて主編が最終チェックを行なった。分類表の最終チェックを終えると、Excelの表に分類情報(類コード)を書き込み、データベースに読み込む。次に、地図作成者が地理情報システムを用いて方言地図を作成する。初図が出来上がると、校正、確認、修正などの過程を経て、最後的に脱稿する。分類作業と作図作業を画一化するために、『漢語方言地図集編図手冊』を作成した。そこには詳しい“分類基準”や“作図基準”などが盛り込まれている。
分類作業に入ったのは、2007年1月からであった。大部分の分類は2007年上半期に集中して完成させたが、分類表の最終チェック作業は2007年12月まで続いた。サンプル地図の作成は2005年から開始し、長期にわたる検討と改良の過程を経て、地図の形式が次第に確定されていった。音声巻の作図は主に2007年9-10月の間に集中して行なわれ、すべての地図の作成を終えたのは2007年12月であった。
以上のほか、2005年以来、六度の地図集編集会議と数十回に及ぶ編集委員会の討論会を開催することで、調査、資料整理、データベース構築、分類、作図等、重要な作業について繰り返し討議を行なった。
三 調査と研究 20世紀初頭以来、漢語方言の調査研究は大きな成果を挙げ、非常に豊かなデータを蓄積してきた。しかしこれらのデータは、調査年代が異なり、また詳細な報告から簡略な報告まで様々ある。さらに被調査者が多種多様であり、調査者のレベルや処理方法にも大きな違いがある。同時に、多くの地域の方言が未調査のままであった。既刊資料に拠るのでは、体系的で不変性を有する『漢語方言地図集』を編纂するのに明らかに不十分である。そのため、本研究では対象とした全地点が研究スタッフ自らによって調査され、そこで得られた資料はすべて研究チームによって統一的に処理された。
調査とデータ分析処理の作業は極めて煩雑なものであり、我々が直面した困難と問題点は数え切れない。しかし紙幅の制限により、ここでは調査研究活動におけるいくつかの基本的状況を述べるにとどめる。
3.1 調査地点
中国大陸には、2006年末現在で、県級の行政単位(県、自治県、旗、自治旗、県級市、市轄区など)が2864ある(但し香港、マカオ及び台湾地区については、関連データが得られていない)。我々はその中から930地点を選んで調査地点とした(1県につき2地点を調査した所が少数ある)。
各地の方言の複雑度が異なることを考慮して、東南方言地域については、原則的にすべての県(県級行政単位を指す。以下同じ)から1地点を選定し、官話及び晋語の地域では3-4県につき1地点の割合で地点を選定した。但し以下の例外がある。
(1) 近数十年、中国の県級行政区画には大きな変動があったが、漢語方言の分布と緊密な関係があるのは、明清時代の府県である。そのため、東南方言地域において、近数十年に県の撤廃、新設が行なわれた場合は、地点選定を一般に清代の行政区画に基づいて行なった。
(2) ある市がいくつかの市轄区(県級行政単位)で構成され、それらが市街地域に位置するか、もしくはその主要部分が市街にあるものは、まとめて一つの県級行政単位として扱った。市街地の外側にある市轄区は独立の県級行政単位と見なした。
(3) 同じ県の中に、帰属を異にする二つの方言が存在し、いずれも勢力が強いか或いは重要な場合は、2地点を選定した。例えば、福建省の浦城県の場合、呉語と閩語の2地点を選定した。また福建省、浙江省等の閩語や呉語の中に散在する畬語の状況を示すために、福建省の寧徳県に閩語と畬語の2地点、浙江省の景寧畬族自治県には呉語と畬語の2地点を選定した。
(4) 東南方言と“直接境界を接する”官話方言の県については、“3-4県につき1地点”の制限をはずし、すべての県に調査地点を選定した。これは方言境界地域における相互影響の状況を観察するためである。
各省(直轄市を含む)の調査地点数及び方言の帰属状況を表1に示した。調査諸地点に関する詳細は付録を参照。また調査地点の地図上での位置については、各巻のはじめに付した“調査地点図”をご覧いただきたい。
表 1 調査地点数
省
| 県級地点数
| 調査地点数
| 官話
| 晋語
| 呉語
| 徽語
| 閩語
| 粤語
| 客家話
| 贛語
| 湘語
| 平話
| その他
| 安徽
| 105
| 47
| 22
|
| 10
| 8
|
|
|
| 7
|
|
|
| マカオ
|
| 1
|
|
|
|
|
| 1
|
|
|
|
|
| 北京
| 18
| 3
| 3
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| 重慶
| 40
| 7
| 7
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| 福建
| 85
| 69
|
|
| 1
|
| 59
|
| 8
|
|
|
| 1畬語
| 甘粛
| 87
| 15
| 15
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| 広東
| 123
| 92
|
|
|
|
| 16
| 43
| 27
|
|
|
| 6土語
| 広西
| 109
| 66
| 3
|
|
|
|
| 15
| 7
|
|
| 36
| 5土語
| 貴州
| 88
| 17
| 17
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| 海南
| 21
| 14
|
|
|
|
| 13
|
|
|
|
|
| 1儋州語
| 河北
| 172
| 31
| 23
| 8
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| 河南
| 159
| 26
| 23
| 3
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| 黒龍江
| 128
| 13
| 13
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| 湖北
| 102
| 32
| 23
|
|
|
|
|
|
| 9
|
|
|
| 湖南
| 122
| 92
| 15
|
|
|
|
|
| 3
| 15
| 43
| 1
| 4郷語11土語
| 吉林
| 60
| 10
| 10
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| 江蘇
| 106
| 40
| 21
|
| 19
|
|
|
|
|
|
|
|
| 江西
| 99
| 87
| 2
|
| 3
| 3
|
|
| 21
| 58
|
|
|
| 遼寧
| 100
| 12
| 12
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| 内蒙古
| 101
| 11
| 5
| 6
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| 寧夏
| 21
| 7
| 7
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| 青海
| 43
| 5
| 5
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| 山東
| 140
| 30
| 30
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| 山西
| 119
| 24
| 5
| 19
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| 陝西
| 107
| 21
| 16
| 5
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| 上海
| 19
| 11
|
|
| 11
|
|
|
|
|
|
|
|
| 四川
| 181
| 19
| 19
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| 台湾
|
| 15
|
|
|
|
| 12
|
| 3
|
|
|
|
| 天津
| 18
| 1
| 1
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| 香港
|
| 2
|
|
|
|
|
| 1
| 1
|
|
|
|
| 新疆
| 99
| 11
| 11
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| 雲南
| 129
| 15
| 15
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
| 浙江
| 90
| 84
|
|
| 77
| 4
| 2
|
|
|
|
|
| 1畬語
| 小計
|
|
| 323
| 41
| 121
| 15
| 102
| 60
| 70
| 89
| 43
| 37
| 29
| 合計
| 2791
| 930
| 364 | 566 | チベット自治区には調査点がないため、表には入れていない。
この中には、方言区ごとに選定した重点調査地点が91 含まれる。重点調査地点の調査には“二字語声調表”と『方言調査字表』を加え、それによって得られたデータは方言データ対照集の編纂に供する。
全33の省政府所在地、及び三つの方言区を代表する蘇州、厦門、梅州(省政府所在地ではない)は、いずれも調査地点に選定した。これらについては、市街地又は近郊の方言を調査し、市に含まれる農村部の方言は調査しなかった。他の調査地点894については、いずれも農村部の方言を調査し、市街地は調査しなかった(但し一部の調査地点は市街地との境界地域に位置する)。
官話及び晋語地域の地点選定は、特別な基準を設けなかったが、調査地点とした県はできるだけ地理的に隣接しないように設定した。一つの県においてどの村を調査するかは、調査者が現地の具体的な状況に基づいて決めた。一般には、出来るだけ県境から離れた中部に位置する村、またその方言が県内でよく通用している村を選ぶこととし、方言島は選ばなかった。
3.2 方言話者
1931年から1945年の間に生まれた男性を調査対象とした。方言話者(インフォーマント)は、その土地で生まれ育ち、外地に長期居住したことがなく、生粋の地元方言を話せる人、また一定の教育(小学卒、中学卒レベルがよい)を受けた人でなければならない。1地点1名の話者を原則とし、年齢差を調査することは求めなかった。但し様々な理由により、年齢や性別の異なる複数の話者が調査された地点もあった。
方言話者の概況を表2に示す。詳細は付録を参照されたい。
表2 方言話者 | 生年 | 性别 | 教育レベル | 職業 | 1930年以前
| 1931-
1935年
| 1936-
1940年
| 1941-
1945年
| 1946年以降
| 男
| 女
| 小学卒
又はそれ以下
| 中学卒
| 大学卒
又はそれ以上
| 農民
| 教師
| 幹部
| その他
| 人数
| 86
| 139
| 232
| 309
| 164
| 921
| 9
| 233
| 578
| 119
| 307
| 397
| 98
| 128
| 比率
| 9.2%
| 14.9%
| 24.9%
| 33.2%
| 17.6%
| 99%
| 1%
| 25.1%
| 62.2%
| 12.8%
| 33.0%
| 42.7%
| 10.5%
| 13.8%
| 複数の話者を調査した地点については、そのうちの主要話者を統計の対象とした。1946年以降の出生者164人の内訳は、1946-1950年が131人、1951-1955年が20人、1956年以降が13人である。“幹部”には各級の役人が含まれる(但し村の幹部を除く)。“その他”には労働者、商人、医者などが含まれる。
3.3調査項目
調査項目は、研究チームの編纂になる『漢語方言地図集調査手冊』に従った。この手冊には調査地点と話者に関する情報、そして音系、単字表、二字語声調表、語彙、文法などが含まれている。このうち、単字音、語彙、文法に関する調査項目は、単字425字、語彙14類470項目、文法65類110項目、計1005項目である。全調査地点について、“二字語声調表”を除く全項目が調査され、重点調査地点に対しては、さらに“二字語声調表”と中国社会科学院語言研究所『方言調査字表』による調査を行なった(その場合、我々の『調査手冊』の“字表”部分は調査しない)。
調査項目を設定するための主要原則は、(1)重要な地域差を反映する、(2)重要な歴史的変化を反映する、の二つである。具体的には、選ばれた単字は過去から現在に至る重要な音声変化を反映する、つまり“代表字”としての特質を有するものでなければならない。選ばれた語彙は、言語の中の重要な概念を表すと同時に重要な地域差を反映するものでなければならない。文法項目は、普通話(標準語)文法体系の基本形式をカバーしつつ、方言でのみ見られるいくつかの重要な文法形式も収録した。例えば、接頭辞“阿”、“数量+頭”、量詞の定指的用法、後置成分の“添、過、先”など。調査データの不変性を保障するために、『調査手冊』は多くの項目について、必要に応じて“限定条件”を加えている。例えば、“張”という字の場合は、量詞で使われる時の発音を調査し、姓としての発音は調査しない。人称代詞「わたし」の場合は、“我姓王”(私は王と申します)の「わたしは」(つまり主格)を調査し、目的語或いは修飾語の位置にくる「わたし」は調査しない。
3.4調査方法
調査地点は全て現地(つまり調査対象の県)に赴いて調査を行なった。伝統的な筆記による記録のほか、デジタル録音方式で全ての調査項目の音声データを採録した。
調査方法は基本的には伝統的な質問法によった。
重点調査地点での純調査時間は5-7日間、一般地点での純調査時間は2日前後を必要とした。
3.5 調査担当者
調査を担当したのは、日本、米国を含む34の大学、研究機関の研究者46名であった。うち34名が漢語方言学専攻の博士学位取得者であり、また准教授以上の肩書を有する者も34名に達した。彼らはそれぞれ本人が熟知している方言地域についての調査を担った。調査地点数は人によって異なり、多くは20-30地点だったが、一人で50-60地点調査した人もいれば、調査地点1の人もいた。
調査担当者は以下の通り(それぞれの調査担当地点については付録をご覧いただきたい)。
曹志耘、陳暉、陳沢平、范耀斌、甘于恩、高暁虹、顧黔、郭風嵐、胡士雲、胡松柏、黄暁東、李建校、李藍、李連進、李咸菊、劉倩、劉淑学、劉新中、羅自群、孟子敏、銭曽怡、秋谷裕幸、瞿建慧、石汝傑、Richard VanNess Simmons (リチャード・シモンズ)、孫宜志、唐伶、汪平、王建設、王莉寧、王臨恵、王文勝、呉偉雄、呉永煥、項夢冰、邢向東、徐越、厳修鴻、張世方、張双慶、張維佳、張燕芬、張燕来、趙日新、周晨萌、荘初昇。
3.6 分類担当者
分類作業を担当したのは20名であり、いずれも研究チームスタッフ、大学院生であった。分類はデータに対する分析と研究であり、作業の難度が高い。分類は項目ごとの責任者によって遂行されたが、いずれの分類表も幾度にわたる討議と修正を必要としたので、事実上は多くの人による共同研究の成果である。
分類担当者は以下の通り。
曹志耘、鄧楠、范耀斌、高暁虹、郭利霞、黄暁東、賈坤、李咸菊、劉倩、郄遠春、石汝傑、王莉寧、夏俐萍、楊璧菀、楊慧君、張世方、張燕芬、趙日新、周晨萌、鄒妍。
3.7 データベースと地図
930地点の原調査情報は100万件以上に達し、人力でこれらの情報を処理することは考えられない。本研究の過程では、データベースが大きな役割を果たした。それは方言データの保存、修正、検索、抽出、比較、分析などに大きな便宜を与えると同時に、コンピュータ地図に不可欠な基礎となった。
作図段階で、我々は中国国家測量局国家基礎地理情報システム(NFGIS)の全国地理情報(400万分の1)並びに米国ESRI社のArcView 9.1版作図ソフトを利用して“漢語方言地理情報システム”を構築し、本システムのもとで方言地図の作成作業を行なった。実際に使用してみて、本システムが簡便で実用的なこと、そして方言地図作成にふさわしいものであることが明らかとなった。
四 内容紹介 調査結果に基づき、我々は全ての調査項目から最も価値のある520の地図項目を選んで、特徴地図を作成し、音声、語彙、文法の3巻とした。音声巻209葉、語彙巻206葉、文法巻105葉である。いずれの地図も全930調査地点の情報を含む。
4.1 地図の類型
各巻に含まれる地図の類型とそれぞれの数を示す。
(按:下图乱了,请参看中文版)
これは地図の属性について行なった分類の結果であるが、各巻における地図の配列順序は、閲読と利用の便を図って通例に従った。
4.2 音声巻
音声地図は、重要な歴史的変化を反映させることを主要目的とするが、同時に重要な地域差を反映する。
(1) 音類地図: 音類の過去から現在に至る変化の状況を示すもので、音声地図のうちの78%を占める。“規則地図”と“代表字地図”の二種類がある。
・規則地図: 音類の過去から現在に至る変化の規則、即ち音類の保存、分化、合併、変化などの類型と変化の規則を示す。例えば、平声の分化、入声の変化、有声閉鎖音・破擦音声母の変化、, 泥・来母の分合、陽声韻尾(, -m,-n,-N)、入声韻尾(-p,-t,-k)の変化など。
・代表字地図: “代表字”とは、各音類における代表的な字のことで、代表字地図は“規則”の音声的具現状況を示す。例えば、「坐-大」(濁上声・濁去声)の声調の異同、「銅」(定母)の声母、「酒-九」(尖・団)の声母の異同、「猪、抽、虫」(知徹澄母)の声母、「大」(果摂開口)の韻母、「心―星」(深摂・梗摂)の韻母の異同など。
(2) 特字地図: “特字”とは、読音の来源や変化の点から見て特殊な字のことをいう。例えば、「鼻」(特字)の声調、「桶」(特字)の声母、「打」(特字)の母音など。
(3) 音価地図: いくつかの代表的で重要な音価を選び、漢語方言の音価面での特徴を示す。例えば、[t§ t§H §]声母、[Â] 声母、舌尖母音など。
4.3 語彙巻
語彙地図は、重要な地域差を反映させることを主要目的とするが、一部の地図からは歴史的変化の様相を見てとることもできる。
(1) 語形地図: ある概念を各地の方言でどのように言うかを示す。語彙地図のうち93%が語形地図である。例えば、「太陽」(日が山に沈んだ)、「今日」、「食べる」(飯を)、「熱い」(天気を指す時)など。
(2) 語義地図: 一つの語形(或いは一つの形態素、例えば“房”)が各地の方言で表す意味を示す。例えば、“手”と“脚”の語義、“房”の語義など。
(3) 分合地図: 各地の方言において、異なる概念に対して同じ語形を使うかどうかを示す。例えば、「外孫」と「外甥」の語形が同じかどうか、「酒を飲む」と「ご飯を食べる」の動詞に同じものを使うかどうか、「人が肥えている」と「動物が肥えている」で同じ形容詞を使うかどうか。
(4) 総合地図: 現有データを総合し、分析を加えた地図。例えば「お月様」の擬人的呼称、「陰茎」の動物名に由来する呼称、「豚の舌」の婉曲的呼称など。
4.4 文法巻
文法地図は、重要な地域差を反映させることを主要目的とするが、一部の地図からは歴史的変化の様相も見てとることもできる。
(1) 文構造地図:ある文法構造(形態、文構造を含む)が各方言でどのような形式で現れるかを示す。文構造地図は“普通話による項目立て地図”と“方言による項目立て地図”に分けられる。
・普通話による項目立て: 例えば、“桌子”の接尾辞、完了体“我吃了一碗飯”(私はご飯を一杯食べた)、処置文“他把碗打破了”(彼はコップを割った)、比較文“我比他大”(私は彼より大きい)など。
・方言による項目立て: 一部の文法現象は方言だけに現われ、普通話には対応する形式がない。このような現象は方言の側から“図目”を設定するしかない。例えば、量詞の定指的用法“只鶏死了”(その鶏は死んだ)、名詞接尾辞“囝”、「先に」を表わす“先”の後置用法“你去先”(あなたが先に行く)など。
(2) 文法語地図: “文法語”とは、文法的属性が強い語のことであり、主に代名詞、副詞及び機能辞などがある。例えば、“我姓王”(私は王と申します)の「わたし」、“今天很熱”(今日はとても暑い)の「とても」、“明天我不去”(明日私は行かない)における否定辞、“我的東西”(私のモノ)における「の」、“他来了”(彼が来た)の完了を表す成分、“衣服被賊偸走了”(服をこそ泥に盗まれた)の受身を表す成分など。
(3) 総合地図: 語構成法や文法機能の表現に関するいくつかの総合的現象を示す。例えば、人称代名詞複数の表示法、指小形式(diminutive form)、動物の性別の表示法など。
4.5 原データ
方言地図が反映するのは抽出と帰納を経た言語現象である、版面の制限があるため、地図上には最も重要な言語的特徴しか反映できず、多くのデータを反映させることは困難である。例えば、音声地図はしばしば声母、韻母、声調のうちの一部を反映するだけで、音節全体を全面的に表現することはできない。語彙地図は、一般に方言語形の漢字形を反映するだけで、具体的な音声を反映していない。文法地図には、高度な抽象化を経たものがあり、文構造を示すだけでそこで用いられる語は反映していない。しかし地図の理解と解釈にとって、また言語現象の分析研究にとって、詳細な原データは疑いもなく重要な資料である。このような地図の不足を補うために、我々は本地図集出版の後に、『漢語方言語料集』と『漢語方言地図集(電子版)』を編纂し、調査によって得られた全ての音声、語彙、文法資料を対照表或いはデータベースの形式によって研究者に提供する。電子版地図集では、さらに音声入りの原データと、多種の検索、表示、比較、分析及びインタラクティブ機能を付加して、さらに大きな役割を発揮できるようにする。
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